緋色の勇者、暁の聖女
 僕たちが来た洞窟の入り口の方から、数名の兵士を従えてこちらへ歩いてくる。グラファイトはすぐ近くで止まると、にやにやと嫌味げに笑いながら更に言葉を続けた。


「まあ、期待はしていませんでしたが」


 ククク、という耳障りな笑いは石壁に当たり響く。僕たちは兵士に囲まれながら、ゆっくりと立ち上がった。

 空気がピンと張りつめたのがわかる。


「あなた方はここで消えてもらいます――――もう、存在する意味もありませんから」


 グラファイトはそう言いながらレイに近づくと、乱暴にその腕をねじりあげた。僕は咄嗟にオプトゥニールを拾い鞘から抜くと、グラファイトに向かって構えながら叫んだ。


「レイを離せ!」


 クレールも腰の剣を抜いてグラファイトに構える。だけど、グラファイトは馬鹿にしたように笑っているだけだった。


「大丈夫、何もしませんよ。聖女にはまだ我々の『見せ物』として働いてもらわねばなりませんから」


 ギリギリと音が聞こえそうなほど腕を締め上げられ、レイの顔は苦痛に歪んでいる。僕はもう一度、叫んだ。


「おまえの言いなりになんかならない! レイを離せ!」

「……まだ、自分の状況が分かりませんか? 不要なのはあなた方です」


 グラファイトがそう言った瞬間、僕たちを囲んでいた兵士たちが、一斉に手にしていた銃をこちらへ向けた。


「あなたも、あの愚かな森の一族のようになりたいみたいですね」


 森の人――――やっぱりあの村を襲ったのはグラファイトの差し金だったんだ。
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