緋色の勇者、暁の聖女
 しばらくすると、ジャンさんがまた部屋の中へ戻って来た。ジャンさんは何も言わずにミュールさんのそばへ歩み寄り、静かにその遺体を抱き上げた。


「準備が出来た……おまえたちも、こいつとの別れに付き合ってくれ」


 ジャンさんはそれだけ言うと、ミュールさんと一緒にまた部屋を出て行ってしまった。僕たちは、ふらふらと力なく立ち上がると、ジャンさんの後を追った。

 ジャンさんは村の外れまで歩いて行った。

 そこは少し開けた空き地になっていて、辺りには白い花が群生している。ここには家もないから、きっとガーディ兵士の襲撃の影響は無かったんだろう。風が吹くと、夜の月に照らされた白い花がさわさわと揺れていた。

 その真ん中に、白い木の箱。

 板と板を繋ぎ合わせただけだの簡単なものだけど、人が一人入れる程の――――木の棺……


 ジャンさんは、抱いていたミュールさんをその棺にそっと納めた。蓋を閉じないまま、棺に覆い被さるように屈む。そして別れを惜しむように、その彼女の顔を手でなぞった。


「――――眠ってるみてえだな……」


 ポツリと呟いた小さな声。

 僕もみんなも、二人の邪魔をする事はできなかった。ジャンさんの悲しそうな赤い瞳は、ミュールさんを見つめたまま動かない。


「辛い想いばかりさせちまった……幸せにしてやる事は、俺には出来なかった……」


 だけど想いはもう、届かない。


 ――――永遠に……

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