緋色の勇者、暁の聖女
 薄暗くて長い通路を進んでいた。

 壁には窓もドアも一つもなく、先の方は暗くてあまりよく見えない。また何処からか兵士が出てくるんじゃないかと、警戒して慎重に進んだが、どうやらこの階にはいないみたいだ。

 それどころか、人の気配も感じない。


 感じるのは、僕たち以外の物音が一つもしない、不気味な静けさだけ。


 床には赤い血の色のような厚い絨毯が敷き詰められていて、自分の足音さえ聞こえない。緊張で荒い自分の呼吸の音が、耳障りだった。

 通路の端まで行き当たると、そこには高い天井にまで伸びる大きな黒い木製のドア。


 ――――ここにきっと、グラファイトがいるんだ。


 レイを見ると、彼女も緊張した表情でうなずいていた。


 ゴクリと飲んだ唾が、喉に詰まりそうだった。少し震える手で思い切ってドアを押した。ドアには鍵なんて掛かっていないみたいだ。ギシギシときしむ音を立てて、ゆっくりと内側へ開く。

 中は、漆黒の闇。

 部屋には窓も無いのだろうか。光を僅ほども感じない。まるで、僕がこの世界へ来た時に通った、ボーダーみたいだった。どのくらいの広さかも分からないくらい、真っ暗な空間。


「……レイ、行こう……!」


 自分の恐怖を抑える為にそう言うと、彼女は僕の手をしっかりと握った。

 中へ一歩踏み込む。それと同時にドアが音を立てて閉まった。慌てて振り返りドアを探したが、手は壁の感触しか見つけられない。今まであったドアが、まるで手品のように消えてしまった。
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