緋色の勇者、暁の聖女


 閉じ込められた……?


 急激に恐怖が体中を駆け巡り、汗が額に滲んだ。だけどもう戻る事は出来ない。大きく息を吸い込むと、心を決めてまた漆黒の闇の中へ、レイと手を繋いだまま足を進めた。

 少し進むと、前方にろうそくのような明かりがポゥっと浮かび上がった。一つ、また一つと、そのぼんやりとした明かりは増えてゆく。


「……ここまで上がってくるとは、思っていませんでしたよ――――勇者に聖女」


 闇に響いたのは、グラファイトの声。冷たく感情の無いような声は、辺りのシンとした空気に消えてゆく。


「ですが……ここに来ても何も変わらない」


 床は通路と同じように絨毯が敷き詰められているのに、コツコツとこちらへ近寄る足音が聞こえる。足音は僕たちのすぐ前で止まると、そこにグラファイトの姿が浮かび上がった。


「何も変わらない――――あなたたちはここで死ぬのですから……」


 グラファイトは、笑っていた。笑顔ではない顔で、口元だけを歪めながら。

 グラファイトはグラファイトの姿をしているけど、それは彼ではなかった。目の前にいる彼の放つ雰囲気は、全くの別人のもの。でもそれが何か分からない。


「――――お前は何者だ!」


 僕のその問いかけに、『彼』はまたニヤリと笑った。


「何者? 可笑しな事を言いますね……私はグラファイト。この世界を取り仕切る、ガーディ教団の大司祭ですよ……」

「違う! お前はグラファイトじゃない!」

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