緋色の勇者、暁の聖女
 そしてジャンさんは、ゆっくりと近づいてきた。


「……アエーシュマは消えた。外ももう、大丈夫だ……やっぱりお前らが倒してくれたんだな……」


僕のすぐ隣に立ったジャンさんは、グラファイトを見下ろしながらそう言った。
 

「……馬鹿な野郎が! こんなになっちまう前に、どうして俺に言わなかったんだ……馬鹿が……!」


 悲しそうな、でも少しホッとしたような声で、ジャンさんは目を閉じたままのグラファイトに語りかける。


 それは何よりも悲しい光景だった。


「全部……全部ケリをつけてやったぜ。お前はあっちでミュールと待ってろ……俺も後から、いってやる……」


 返事はもう、返ってはこない。僕はその言いようのない悲しみに、涙が溢れた。


 ――――僕たちは、勝った。


 だけど、その悲しみはあまりにも大きくて……

 うつむくと、涙がポタポタと落ちてグラファイトの肩を濡らす。拭う事もできず、涙は流れた。僕の涙はグラファイトの着ている服の布地に染みこんでゆく。


「緋絽くん……手が……?」


 レイのその言葉に、僕はやっと涙を拭った。そして彼女が指し示した自分の手を見ると、それはぼんやりとした光を放っていた。

 手に握っていたのは、ミュールさんの砕けた石……
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