緋色の勇者、暁の聖女


「――――緋絽(ひいろ)、お母さん今日パートで遅いし、お父さんも残業だから。夕飯用意しておくから一人で食べてね」

「分かった」

「ああ、それともお友達と何処かで食べてきてもいいわよ?」

「そんな友達いないよ……行ってきます」


 玄関でまだ何か言いたそうなお母さんを置き去りにして、僕は家を出た。

 外はもうほとんど夏で、まだ朝だというのに太陽がギラギラ。僕と同じ中学の制服を着た人たちが、同じ方向へ向かっていた。みんな友達どうしとかカップルとかだけど、僕はその学校への流れの中、一人で歩いて行く。


 ――――僕は友達がいない。


 別にいじめられているとか嫌われているとかでは無い。友達を作る事に、それ程興味が無いんだ。作るつもりもないし、欲しいとも思ってない。

 だって友達なんて面倒でしかない。

 友達同士つるんだりして騒いだりしている人たちを、羨ましいとも思わないし。それに、約束とかうらぎりとか喧嘩とかでごたごたしたり、離れたと思ったらまたくっついたり。そんなの煩わしいだけじゃないか。

 クラスでの僕の評判は、大人でクール。だけどそれが当たっているとも思ってない。別に面倒だから否定もしないけど。

 誰とも深く関わらないように生活していると、この世界は驚くほど生きやすい。誰にも自分のペースを乱される事も無いし、毎日が淡々と平和に過ぎて行く。

 僕はそれでいいとずっと思っていた。
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