緋色の勇者、暁の聖女
 隣の席になった彼女――――暁さんは、物静かな女の子だった。声が出せないから当たり前かもしれないけど。

 でも、同じ年のクラスの女子たちとは確実に空気が違う。いつも穏やかな笑みを浮かべ、綺麗な文字を書く。

 関わるつもりは無いが、クラスのうるさい女子とは違う暁さんが、僕は何だか少し気になった。


 暁さんは隣の席だからか、僕の孤立を心配している担任に言われたからか、度々話しかけてくる。もちろん声が出ない彼女は、文字でその意思を伝えてくるのだ。


『――――キミの名前は?』

「神無月 緋絽(かんなづき ひいろ)」

『かんなづきくん』

「ひいろ、でいいよ。長くて書くの面倒だろ」

『……じゃあ、私も零って呼んでね』


 女の子を名前でなんて呼んだ事はなかった。彼女は文字に書けばいいだろうけど、僕は声に出さなきゃいけない。それが何だか恥ずかしくて、結局僕は呼ぶ事が出来なかった。

 名前で呼ぶ事を拒否すると、暁さんは少しだけ悲しそうな顔をした。


 クラスでの暁さんはすぐに話題の中心になった。

 もちろん彼女は話す事は出来ないが、物見だかい女の子たちの格好の餌食だ。それに、彼女を取り巻く空気が何だか不思議な事も、たぶんみんな感じていたのだろう。

 何だか特別な女の子、そんなものを感じた。

 休み時間になると必ず、暁さんの周りには人だかりが出来ていた。彼女は回りに集まって喋りまくるクラスメイトに、静かで控えめな笑顔で答える。

 僕はそれを、ただ見ていた。
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