Sweet break Ⅲ
『お前がこういったことに慣れていないことは、充分理解しているし、最初からガッツくつもりは無かったんだが…』

言葉を切り、少しの間を取ってから続ける。

『正直いうと、さっきお前に触れた瞬間、どうしょうもなくお前を抱きしめたくなって、本気で焦った…』
『…え?』
『ったく、いい歳して自制が利かないなんて…恥ずかしいにも程がある』

話の内容よりも、関君の戸惑う仕草が、いつものクールで冷静な彼から想像もできず、あまりにも意外でらしくない姿に、思わず泣いていたことも忘れて、吹き出してしまった。

『おい、何だよ』
『あ、ごめん…なんか意外すぎて…関君でもそんな顔するんだね』
『は?お前、状況わかって言ってるのか?』
『うん…私に魅力がありすぎるって話でしょ』
『だから、何で、そうなるんだ?』

また呆れたように呟かれるが、もう不安になることない。

不器用だけど、関君の気持ちは充分分かったし、私だって、もっと自信をもっても良いのかもしれない。

『朱音』

もう一度名前を呼ばれ、その違和感の無さに、やっぱり単純に嬉しくなり、すぐに『何?』と返事をかえす。

『どうでもいいが、早く俺に慣れろ…じゃなきゃ、身が持たない』

その声は、驚くほど真剣な声音で、やっぱり場違いにも吹き出しそうになる。

『うん、一応、努力してみるよ』

泣き止んだ目で、関君を見あげると、『一応って何だよ』と、またもや視線を外に逸らされてしまった。

なるほど…そういうことなのね。

顔をそむけられた為に、その表情は見えないが、こちらに見えている耳が、ほんのり赤くなっているのは、もう見逃さない。
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