天罰
彼女は時々俺の部屋にある時計を眺めた。時間を気にしてる割には帰ろうとしない。俺は訳が分からなくなって一旦自分の部屋を後にした。するといつもより一時間早く悟が帰って来た。「ただいまー」と言う声が廊下に響き渡り、恐らく彼女も悟の存在に気づいたようだった。リビングに入って来た悟に向かって「今日は早かったな」と声をかけると「ゲームのやりすぎだって健太のお母さんに怒られたから逃げて来た!」と言って笑いながら答えた。すると突然水城さんがリビングに入って来ると「弟さん帰って来たの!?」と聞いて来た。弟が彼女の方を驚きながら振り返ると彼女に軽く会釈をした。「お兄ちゃんもしかして彼女出来たの?」とからかってきたので生意気だなぁと思い、うるせーよと言おうとしたがその前に「ううん!彼女じゃないから!」と先に彼女にばっさりと呆気なく言われてしまった。すると彼女が突然「ねぇ、悟くん今時間ある?私ね、あのゲームの裏技教えに来たのよ」と言って来た。驚いたのは俺の方だった。この時に初めて彼女の言動に違和感を覚えた。「え?マジで?」まだ思春期も迎えてない無垢な弟は彼女の本当の目的に思い巡らすこともせず単純にゲームの話に食いついた。笑顔の弟を見た時の彼女の表情を見て思わず言葉を失った。紅潮した桃色の頬に天使ような微笑み。俺が今まで見たことのない可憐な表情に思わず息を飲んだ。彼女は俺に見向きもせず二人は悟の部屋に入って行った。
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