ドクター時任は恋愛中毒


……彼氏云々の誤解はともかく、この健気な姉妹を放っておけないな。

そう思う俺だったが、とりあえず今日は仕事もあるため早帆さんに千緒を預け、『また来ます』と宣言したうえで、マンションを後にしたのだった。





昼頃、外来の診察を終えて医局に戻ると、俺のデスクの上に見慣れないものが置かれていた。

チェック柄の布に包まれた、平べったい四角い箱。その結び目には、割り箸と小さなメモが挟まっている。


“あんなに眠れたのは久しぶりで、とてもスッキリ目覚めることができました。ささやかですが、お礼です。 水越”


「礼など構わないのに……」


メモを手にひとりごち、デスクに座って包みを広げた。中から出てきた弁当箱の蓋を開けてみると、それはそれは彩り豊かで美味しそうな料理の数々が。

ご飯の上に乗せられているのは、あめ色に輝く鶏の照り焼き。脇には紅ショウガが添えられている。きれいに巻かれた卵焼きに、花形に飾り切りされた人参。大葉入りのつくね。ポテトサラダ。

彼女が朝からこれを作ったのかと思うと、余計に疲れさせてしまったようで、逆に申し訳なく思えてくる。

……が、それ以上に、とにかく美味そうだ。ここはありがたく彼女の好意を受け取ることにしよう。


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