ドクター時任は恋愛中毒


別の同僚が気持ちの悪い猫撫で声でそんな願望を口に出すと、俺はなぜだか苛ついた。

が、自分でもその感情が不思議で、苛立っているのに戸惑うという不思議な現象が胸の内に渦巻く。

……まあ、おそらくは。腹が減っているのにつまらない話で食事の邪魔をされたからだな。

俺は一人でそう納得し、同僚たちのことは無視してデスクに向き直った。気を取り直して照り焼き丼風のご飯を口に運ぶ。

……うむ。これは、見た目以上になかなか美味……。

黙って次々弁当を口に運ぶ俺を見て、背後の同僚たちはまたしても勝手な会話を始める。


「お前が変なこと言うから、時任先生へそ曲げちゃったじゃないか」

「っていうか……嫉妬? あの時任先生が嫉妬してるのか?」

「こうなるとやっぱ気になるな、水越さん。サイボーグ時任に感情を芽生えさせた初の女性として」


こいつらは何を言っているのだろうか。

嫉妬? それは、麻薬中毒ならぬ恋愛中毒で脳内がドーパミンやらエンドルフィンやらフェニルエチルアミンに占領された者たち特有の不毛な感情だろう。俺には全く関係がない。


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