漢江のほとりで待ってる

地面に横たわったまま、意識が戻り、ゆっくり目を開けた由弦は、涙がこぼれ落ちた。

「彼女だったんだ。珉珠さん、あなただったんだ……」

入院していた間も、彼女から名前を呼ばれることに違和感がなかったのは、珉珠だったから。

彼女がいつも傍にいることも自然だったのは、珉珠だったから。

彼女が来ない日が淋しかったのは、自分の大好きな人だったから。

自分を呼ぶのは、他の人ではなく、珉珠でないとダメなのは、大好きな人の声だったから。

記憶が一気にパノラマのように思い出されて行く。

大好きな笑顔で自分の名前を呼ぶ人、目を覚まし、記憶が戻ったら、彼女だけがいない。

自分の中に、あなただけがいない。

いつもあんな近くにいたのに、分からなかったなんて……

ちゃんと目覚めたのに、キミがいない。

ずっとずっと見守ってくれていたのに、どうして!

わさび畑が広がるあの場所での記憶も。

「なら離さないで?」

「離さない」

誓い合ったはずなのに。

由弦は苦しくて胸が張り裂けそうになり、思わず声を上げて泣いた。

「うわぁーーーっ!!あっあっあーーーっ!うっうっ」


―――― キミがいない……


< 209 / 389 >

この作品をシェア

pagetop