白き竜の語り部
「近くに巣がある!」

 なんと! このワイバーンは母であったか。

 これはまずい事になった。

 シレアを仔どもの餌にしようと目が血走っておる。この辺りは今は乾季なのか、餌となる獣が乏しい事に気付かなんだ。

[ええい、仕方なし!]

 我は意を決しワイバーンに飛びかかった。

 本来、ワイバーンはそれほどしつこい性格ではないのだが、よほど餌にありつけていないのか、我と取っ組み合いをしているにも関わらず視線はシレアから離れない。

 出来るならば、仔を思う母であるこやつを殺したくはない。

 どうすればよいのかと思いあぐねていると、シレアが袋の中から肉の塊(かたまり)を取りだして遠くに投げた。

 先日に狩った猪だと臭いで理解し、肉を追って遠ざかるワイバーンを眺める。

「やるなら状況を確認してからやれ」

[あい申し訳ない]

 まったく頭が上がらぬ。

 素早く気付いたシレアが我を制止する間もなく、我が呼び寄せてしまったがため、こんな事になってしもうた。
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