楔~くさび~
突然、コロッって転んで持ってた焼きそば全部こぼしちゃった。



「えっ!?」


ビックリした私は、持ってたティッシュを差し出して「大丈夫ですか?」って思わず声をかけた。


「あっ、すみません。ありがとうございます」ってそのときに顔を見て、「あ、ADの人だ」と気づいた。



「こんなに大量ってことは、あっちの部屋に持っていくんですよね?」


あっちの部屋というのはマコトさんとかがいる、大物系がたくさんいる部屋。


私はたくさんの人と会話するのは仕事以外はパスって感じだから二人で話してたんだけど。


「そうなんですよ。まいったなぁ。あるだけ全部持ってきたのに」


苦笑いする顔が優しかった。


「マオたん、私が言っておくよ。」


「ホントですか?助かります」


そう言って、私と話してた子が大物系の部屋に入っていった。


「あ、シャツについてますよ」


ソースを拭こうとして、ADさんの襟元近くを拭いてた。何だかすごく甘い香りがする。香水・・・?


ふと上を向くと、彼が私を見ている。


ち、近っ。私はパッと体を離した。


「ヒカリさん、ごめんなさい。ボクはもう大丈夫だから」


「でも、汚れてますよ?・・・あ、そうだ。私のスタイリストさんの服使ってください」


「えっ?」


半ば、強引に服を持たせた。


「これ、どうやって返せばいいかな・・・?」


「次、仕事するときにでも」


「でも、いつ仕事できるかわからないし」


じ~っと彼の顔を見てみる。・・・・別に悪い人には見えないけどなぁ。


「あ、これ、よかったら。私のポケベルの番号」


彼に差し出した。他に手段がなかったっていうのもあるけど。


「じゃあ、これはボクの家の番号です。何かあったら」


「ありがとうございます。じゃあ、私、明日も仕事早いからお先に失礼します」



それがマオを初めて意識した日だった。
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