〜starting over〜
前もって私の荷物が準備されてたって事は、こうなる事が前から決まってたって事なの?
だったら、事前に何か説明してくれてもいいじゃん。
別れの覚悟をする暇もなく、突然親元から放り出されるなんて納得できない。
私は、お父さんとお母さんから離れたくないのにっ。
こんなのヤダっ。
車から降りようとした時。

「杏っ!」

聞き覚えのある声に、心臓が大きく跳ねた。
視線を移動させると、息を切らせた真輝の姿があった。

「悪いけど、俺も仕事が残っててこれ以上ここに長居は出来ない」

湊さんが、溜め息を吐いて腕時計で時間を確認する。

「杏……早く」

お母さんは今にも泣き出しそうな顔をしている。
私、此処に居ちゃいけないんだ……。

「お母さん、お父さんによろしく伝えてね。私……行ってきます」

きつく手を握って、出掛けるような挨拶をすると、お母さんはとうとうはらはらと涙を流した。
真輝が何かを悟ったのか、こっちに駆け寄る素振りが見えたと同時に勢いよくドアを閉めた。

「杏、待って!」

真輝の声がしたけど、湊さんは本当に時間がないのかさっさと車を発進させた。
サイドミラー越しに真輝が走ってくるのが見えたけど、すぐ目を逸らして先を見つめた。
いつか両親のもとへ帰ってくると誓って―――。


道中。

「おまえ、何処まで聞いてる?」
「どこまでって……何も……」
「何もって……。借金の事、何も聞いてないのか?」
「やっぱり借金してるんだ……。ねぇ、どうしてこんな事になってるの?」

身を乗り出して詰め寄ると、

「……マジかよ」

湊さんは、頭が痛いと言わんばかりに額に手をあてた。
そして、両親に代わって湊さんが事の顛末を語ってくれた。
発端は、私が言葉のワードから察した通り、佐伯おじさんの借金問題だった。
おじさんは、大きな借金を抱え途方もくれていたところ、長年の友人であるお父さんに助けを募った。
決して迷惑はかけない。
借金は必ず自分で返すから、名前だけ貸してほしい、と約束をして。
そして、お父さんが連帯保証人になってすぐ、借金取りがお父さんの前に現れた。
佐伯おじさん一家が、夜逃げをした、と。
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