〜starting over〜
「何かって?」

何故か、生ぬるい視線が返ってきた。
仕方ないじゃん、解らないんだからっ。

「………世の中には色んな趣向の人間が居るんだよ。ただの趣味、ただ金儲けの為に、非人道的なことも厭わない恐ろしい思考の持ち主は山ほど居るんだ。命の保証だってない」

命の保証……。
大げさ、とか、私に限って、とか思う気持ちもあるけど。
毎日のようにニュースで流れる凄惨な事件に、自分だって巻き込まれる可能性の種が足元に埋まっているのだ、今日現実に体感したから、ゴクリと生唾を飲んだ。

「そうね。恋人や友人すら簡単に裏切れる人間がいるんだから、何が起きてもおかしくないよね」

だから、両親は湊さんに私を託した。
私はまだ未成年で、誰かの助けがないと生きてはいけないし。
子供だけど、自分なりに毎日一生懸命生きてきたつもりだった。
部活に勉強に恋に、時々お店の手伝い。
苦しくても悲しくても、毎日いっぱい考えて、ひたすら頑張ってきたのに……。
人は人を簡単に売ら゛れるもんなんだね。

「おまえは早熟だな」
「早熟?」
「ところで、さっきの男は彼氏か?」

私の疑問にこたえず、私の心を抉るような話題を差し替えられてしまった。
急に動悸が激しくなる。
真輝の顔が浮かんで、追い出すように振り払う。

「だった……。過去形」

やだな。
その話はしたくない。

「へぇ。あっちは未練ありそうだったけど」

胸が苦しい。
蓋をしたはずの感情の濁流が、渦を巻いて溢れだしそうなのを必死におさえる。

「もう関係ない。ねぇ、湊さん。仕事って言ってたけど、これからバイトあるの?」

今度は私が話を変えた。
動揺を悟られないように、なるべく明るい声音で言ったら、缶コーヒーに口をつけてた湊さんは「ぶはっ」と噴出し。
慌てて腕で拭う。

「み、湊さんって……」

ティッシュを見つけて手渡すと、怪訝そうにこちらを一瞥。

「おじさんの方がよかった?」

私からすれば、おじさんだしね。
名前呼びの方がシックリくるから呼んだけど、ダメだった?

「……名前でいい。あのさ、言っとくけど、俺普通に……会社員?だから」

何故か職業が疑問形になってた。
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