〜starting over〜
お店は、家庭料理がコンセプトだったから、本当に手作りに拘った昔ながらのオカズが多かった。
色どりは地味だけど、味はしっかりしているはず。
圧力鍋を開けると、シッカリ色のついた大根を1つ取り出し、ふーふー味見。
あっっっつ!
でも、シミシミで美味しい。
さすが弁当屋の娘、と自画自賛。
1つでも取り柄があるのは誇らしい。

「湊さ~ん、ご飯ですよ~」

気分よく歌ってるところ申し訳ないけど、時間です。
作り手としては、温かいうちに食べてもらえると嬉しいよね。
テーブルにお皿をサーブしてると、湊さん登場。
さっきまで歌っていた人物とは思えない、不機嫌顔。
声だけ聴いたら、あの声の持ち主がこんな人物だとは、誰も想像しないはずだ。
これが、湊さんの通常運転という事は、同居して早々に悟った。
2人の食卓。
会話らしい会話はない。
湊さんについて、なんとなく気になる点がある。
湊さんは普通の会社員って言ってたのに、殆ど家から出てる形跡がないという事。
だって、普通の会社員って、出勤するじゃない?
それが、ない。
最初は、在宅の仕事なのかとも思ってたけど、仕事だとか言って数日留守にする時もあったり、夜中に出掛けたりと時間が一定していなくて、全く職業が読めない。
殆ど家に居て、気晴らしにギターの弾き語り。
それに、あのバラエティに富んだ本が資料になるなんて、一体どんな仕事をしているんだろう。
このマンションも絶対それなりにする物件っぽいし(バイトの面接で提出した履歴書の住所をみて店長がビビってた)、すぐ色々買ってくれようとするから、収入はそれなりにあるんたろうけど……。
匿ってもらってる身としては、余計な詮索は厳禁とは知りつつも。
半年一緒に居ても、さっぱり解らない。
このギター侍めっ。
恨めしそうに視線を送るも、湊さんは見る先はテレビ。
流れているお菓子のCMに起用されているのは、今人気のアイドルグループ。
この仏頂面でアイドル凝視とかってウケる。
あ。
でもこれ、結構前に湊さんが歌ってたヤツだ。
今は懐メロとかのカバー曲が多いもんね。
こうやって聞き入っちゃうくらい好きな一曲なのね。
しつこいようだけど、アイドルを仏頂面で凝視って……ウケる。

食事が終わると、ソファで寛ぐ湊さん。
私は片づけを終えると、お風呂をいただく。
バスタブに浸かると、身体から力が抜ける。
あったかくて、気持ち良い。
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