〜starting over〜
夜は時間がある。
両親の負債を考えると、朝から晩まで働いて少しでも用立てれれば、とは思うんだけど、年齢的に、働ける時間ってのが決まっていて、深夜とかは法に反するので雇ってもらえない。
年齢詐称しちゃおうかとも思ったけど、ちょっと怖いし。
湊さんに放任主義って言っても、その辺は厳しいんだよね。
だから出来る範囲で、コツコツと。
……て、悠長な事いってるけど、先が見えない漠然とした不安もある。
そう。
いつまでも此処に居られる訳じゃないんだ。
湊さん、今は保護者かもしれないど、親じゃないんだし。
いつ終わるか解らない我が家の返済に、湊さんを巻き込んだままでいいのかなって。
それに、湊さんは、今はシングルみたいだけど、この先いつか恋人が出来て、結婚とかになったら私の存在は足枷でしかなくなる。
独り立ちするまでの期限は不明だけど、夜も働けるようになったら、一人暮らしして、少しでも多く送金できるよう頑張らなきゃ。
お風呂から上がったら、ソファに寝転がった湊さんは背凭れに片足をのせて、クッションを抱っこしながら、今にも眠ってしまいそうに、うとうとしている。
私の高潔な一大決心が台無しになるような光景に、がっくり。
……だらしないオジサンだわ。
しれっと濡れた髪をタオルオフしていると、湊さんが話しかけてきた。

「あ~……明日から暫く忙しくなるから、朝も夜もメシ要らないわ」

なんだ、その「あ~」は。

「……仕事?」
「そ」

でた、謎の仕事!
今なら聞いてもいいかな?

「湊さんの仕事って……」

言いかけるや否や、グーグーとイビキが聞こえてきた。
……また聞きそびれた。
予備の毛布を持ってくると、湊さんの上にそっと掛ける。
テレビを消して、エアコンを消して、照明を消して。
背後に響く寝息に押されるように、私は静かに自室へ引っ込んだ。

翌日。
起きると、既に湊さんの姿はなく、簡単に畳まれた毛布がソファの隅に寄せられていた。
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