〜starting over〜
ニュースを見るため、テレビをつける。
午前中に来店されるお客さんの中には、事件や芸能人のスキャンダル等お喋りをしてくる常連さんも居るから、ある程度世の中の動きをチェックむしておかきなきゃ。
これは、両親もしていた。
忙しい時間ならまだしも、余裕のある時間帯は、お客さんとのやりとりもちゃんとした仕事なのだ。
昨日の残り物をお弁当に詰めて、朝はトーストに炒り卵を乗せてケチャップをかけるだけの簡単なものにした。
1人だし、何かお腹に入れる程度でいいや。
再度テレビに目をやると、芸能ニュースに切り替わり大きな見出しが飛び込んできた。
『Muse 矢代瑠璃・脱退!』

「え~、まだ結成間もないのに」

つい口にだして驚愕した。
Museとは、私が地元を離れて湊さんの所に身を寄せるようになって間もない頃に結成された、5人の女の子のダンス&ボーカルグループだ。
中には女優、モデル、グラビアで活躍している子もいる。
矢代瑠璃は、その中でも1番人気のあるメンバーで、ドラマや映画に出演するなど、女優としても活躍の幅を広げている。
でも、私は彼女のファンでもなんでもない。
私が関心を向けるのは、ただ1人。
その子の名前は、熊田奈々。
元同じ高校のクラスメイトでダンサー志望だった、あの、熊田奈々ちゃんがこのMuseに在籍しているからだ。
すべては地元に置いてきた。
だけど、殆ど接点がなかったけど、同級生が頑張っている姿は微笑ましく励みになる。
それに、奈々ちゃんはあのクラス・グループ内でも私を白い目で見る事はなかったから、悪い印象はない。
寧ろ、私をターゲットに弄る同級生を『外野が騒ぎ立てるもんじゃない』と諫めてくれた事が多々あった。
まぁ、私達の色恋沙汰に無関心だっただけだろうけど。
少なくとも私の心はその瞬間救われた。
そして、それを機に考えるようになった。
私と真輝の今後を、一体どうしたいのかを。
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