〜starting over〜
自分のやりたい音楽を捨てきれてないが、人をプロデュースする側とまわり、芽を出し始めたばかり。
それに遣り甲斐を感じ始めたばかりだったし、お互いに大事な時期だから時期尚早だと伝えると、

「そうね。湊は今が踏ん張り時だもんね。……湊、好きよ」

星菜は、力なく笑った。

ふたりの間に大きな溝が出来ている事に、俺は気付かないでいた。

それから暫くは、お互い忙しくすれ違いの日が続いた。
そんなある日。
ステラに楽曲を提供をする事になった。
ステラは自分の曲の全ての作詞を手掛けていたが、珍しく作詞も作曲もすべて俺に委ねられた。
そうして出来た曲が『Dear my……』。
恋愛色の強い歌詞を描くステラだが、女性ファンが多い事から、友情色が強い楽曲を制作した。
収録は何事もなく、順調に収録を終え、曲はアルバムに収録された。
しかし、その直後。

星菜とは連絡がとれなくなり、ステラは電撃引退を発表し、世間に衝撃を与えた。

俺は、丁度仕事が立て込んでいた時で、すぐに連絡ができなかったが、仕事がひと段落して落ち着いた頃には携帯は解約されていた。
マンションも引き払っていて、行方が解らない。
引退発表は突然の事に驚愕はしたが、後回しにしてしまった事が完全に後手後手となってしまった感が否めない。
故郷にでも帰ったのか、外国に飛んだのか。
俺をこの会社に誘ってくれた先輩でもある社長に訊ねても、詳細は解らないと言う。
ただ、まだまだこれからだと諭すも「ステラではなく、天野星菜に戻りたい」のだと泣いて懇願したそうだ。
思い返せば、ステラのおかしな発言に、もっと気を配っていれば。
不動の人気を手にしながら、星菜とは真逆のイメージのステラを演じ続けなければならない苦しみに、精神を病んでいったのかもしれない。
ステラに心酔する人々。
沢山のスタッフを抱えて、出来たばかりの事務所を支えて、本来の自分を押し殺して生きる星菜。
華やかな世界の中心で笑顔を張り付けるステラの孤独を、俺は理解していなかった。

言いようのない虚無感が、意識に影を落とした。

それでも時代を彩る人物は日々排出されるこの世界。
そう時間をおかず、ステラも過去の産物となり、新しい時代が始まるのだ。
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