敏腕メイドと秘密の契約
階段で2階に上がると目の前に玄関らしき扉が出迎えた。

1階世帯とはメインの玄関を共有しているが、2階に繋がる玄関は別にあり、2世帯住宅のようになっているようだ。

天音の祖父母が健在であった頃は、2階を天音の両親が使用していたという。

5年前に祖父母が他界してからは、2階は天音が一人で使用してきたらしい。

アメリカに渡った藍は、 高校一年の時、アメリカ人男性ジョンとその妹ジュリア、ジョンの彼女マリアと、ルームシェアをしていた。

ジョンは三浦家の母・ありさの親友の息子で信頼のおける男性だ。ジョンの両親がニューヨークで仕事をすることになったので、マンションの空いている部屋を、藍に貸してくれることになったのだ。

もっとも、藍は男ばかりの研究室に閉じこもり、幾晩も大学に泊まり込むこどが多かったのだが。

まあ、そういうわけで、

藍は男性とのルームシェアには全く抵抗がなかった。

邪な感情を持つ天音にとっては、ある意味、理性をため試される状況であるといえる。

「リビングとバス、トイレは共用。三浦さんはあっちの部屋を使って」

天音は、リビングを挟んで右側の部屋を天音が使っており、藍には左側の部屋使うように言った。

「もちろん部屋にも鍵はついているから、眠るときは鍵をしてもらって構わない。使用人には2階に来ないように伝えてあるし、玄関の鍵も替えたから、俺たち以外はこの中には入れない。だから、この中にいるときは変装しなくても大丈夫だよ」

「突然、誰がか訪ねて来ることはないの?」

「そんな時は内線電話で呼び出すように伝えてある。そうすれば、一階の応接室で対応できるから、メイクする時間も確保できるだろ?」

天音はリビングのソファに腰掛けながら笑って言った。

「俺には遠慮しないで。素のままの君でいてほしい」

こうして二人の奇妙なルームシェアが始まった。
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