敏腕メイドと秘密の契約
今回の任務依頼の主軸となる"倉本天音"は、藍と同じ25歳。

倉本システムエンジニアリング株式会社社長の長男で、副社長の職についている。

黒髪に175cmの涼しげな美男子。高級ブランドのスーツを嫌味なく着こなす。

「コーヒーを飲んだら出社する」

コーヒーカップをテーブルに置いたあと、天音は立ち上り"自室に戻る"と言った。

藍は、和服に身を包み朝食の片付けをしている。



おかっぱで、ふっくらとした頬にはそばかす。

普段の知的な顔立ちからはかけ離れて見える

"可愛い系の童顔"

特殊メイクで変装しているのだ。



藍は、先週からこのお屋敷に婚約者として住み込んでいる。

使用人達から婚約者として怪しまれないように、天音と藍は部屋も同室ということになっている。

実際、二人が暮らしている2階は、入り口が1つというだけで中には扉がいくつもあり、家庭内別居のような状態なのだが、使用人にはわからない。

『使用人の中にもスパイがいるかもしれない』

と、契約時に天音は語った。

半年程前から、他社に倉本システムエンジニアリング株式会社の機密情報が漏れており、以来、犯人探しをしているという。

しかし、敵がなかなか尻尾を出さないため、三浦HSに調査を依頼してきたというわけだ。


一緒に住み始めて3日目の朝。
天音と藍は天音の運転する車で一緒に通勤をすることになった。

藍の勤務先は、知人が運営する"一軒家の一室を使った会計事務所"ということになっている。

家の周囲は、監視カメラでセキュリティ監視中。

実は、

この和風の住宅兼事務所は、三浦HSの持ち物だ。
よって、
訪れる対象によって役割を変える。

ちなみに壁で仕切られているように見える洋風の隣の家も三浦HSのもの。

二つの屋敷には、常に1名の社員が配置されており、基本的に事務所から出ることはない。

引きこもりがちなインドア職員が、四六時中、株や証券を転がし、ネットで情報管理をしているのが実状である。



「おはようございます」

藍は、天音の車から降りると、会計事務所のある和風の家の玄関をくぐった

そのまま部屋を突っ切り裏口から裏庭に出ると、2件の家を隔てる壁に作られた隠し扉を使って、洋風の家に入る。

そこの一室に入ると、

藍は素早くウィッグを取り、長い髪をアップにする。

そして、洗顔をし、先程までのメイクを落とす。

素顔にモデル風の自然派メイクを施すと、フレームレスの眼鏡をかけ出来る女風のスーツに着替える。

そして、10分後、

藍は、颯爽と玄関を出ると、
まっすぐに続く道をパンプスで闊歩し、倉本システムエンジニアリング株式会社に向かうバスの停留所へと急いだ。

婚約者役から、秘書役に変身する瞬間だった。
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