敏腕メイドと秘密の契約
「ところで、その様子だと、二人の思いは通じ合ったと思ってもいいのかしら?」

藍の母ありさが嬉しそうに尋ねると、

「はい、これからは俺が藍さんを守ります」

と、藍の肩を抱き寄せていた天音が答えた。

「わざわざ日本に来た甲斐があったヨ」

ジョンも嬉しそうだ。

「藍はそのまま、倉本家に婚約者としてご厄介になりなさい。天音くんのご両親もすべて納得済だからね。もちろん使用人さんたちも」

天音の母:笙子は、先程"出かける"と言った二人の様子を見て、忠志とありさに"うまくいったようだ"と連絡していたらしい。

この絶妙なタイミングのジョンの来社も仕組まれたものだった。

「変装したりしてバカみたいね。私」

藍は苦笑してボブヘアのウィッグを外した。

「藍、これまであなたを私達の会社の都合のいいように動かしてきたわ。これからは自分の幸せだけを考えなさい。倉本SEにそのまま秘書として残ってもいいし、家庭に入ってもいい。好きにしなさい」

母ありさは申し訳なさそうに、しかし、娘の幸せを願う一人の母としてはっきりと言った。

「君はAIじゃなくて、感情を持った一人の人間だ。コンピューターは有能でも人を愛する気持ちは教えてくれない。それは天音君から教えてもらいなさい」

同じ天才と称されるジョンは、それを彼女のマリアから教えてもらっていたことが、藍との決定的な違いだった。

周りから愛されている、必要とされている。
何よりも、愛しい天音からの愛情を与えられる,,,。

そのことを実感した藍は、物心ついてから初めて涙を流していた。
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