敏腕メイドと秘密の契約
天音には第一秘書がいる。

"田之上一真" 35歳。

天音のスケジュール管理や対外的なことは彼が管理している。

田之上は、天音が副社長に就任した昨年から天音付きの秘書になった。

それまでは、先代副社長である"松山謙次郎"付きの秘書であったが、松山が心筋梗塞で倒れて退任したため、そのまま天音の秘書として働くことになった。

田之上は淡々と仕事をする有能な秘書であるが、今のところ、情報漏洩の被疑者候補でもある。

藍はその下で働く第2秘書として、海外の顧客とのやり取りをメインに担当するよう指示を受けた。

実は、藍は、システムエンジニアとして国から仕事を依頼されるほどの有能なハッカーでもあるが、この会社でその事を知る者はいない。

先程、電話で話をした海外の顧客とのやり取りを、掻い摘んで田之上に報告しながら、藍は素知らぬ顔で彼の様子を伺っていた。

先代の副社長であった松山は、倉本社長の"社長の座"を虎視眈々と狙っていたと言われている。

黒い噂も聞いた。

当然、倉本の秘書であった田之上にも黒い噂が付きまとっている。

この数日、田之上は噂など全く気にせず精力的に仕事をこなしているように見えた。

『泳がせよう』

それが、三浦HSの幹部社員の総意であった。

今夜は、海外のお得意様を招いた新しいシステムソフトウェアのお披露目パーティだ。

『何か怪しい動きを見せるかもしれない』

パーティにはボディーガードである藍の兄:雄貴も同席する。

雄貴は35歳で、2年前までは警視庁でSPをやっていた。刑事としても有能であった雄貴は、今でも警察から協力依頼されることもしばしば。

午後になれば、パーティに参加する国内外の顧客の一部が企業視察に訪れることにもなっているから、田之上が犯人なら何らかの動きを見せるはずだ。

藍は、眼鏡をくいっと押し上げると、田之上と共に午後の予定を確認した。
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