極甘同棲~エリート同期の独占欲を煽ってしまいました
「精鋭が選ばれてニューヨークに行くことになるんだろうなー」
香織さんの口調は興奮気味だ。

「三崎さんとか名乗り上げそうじゃないですか」
北川さんが声をひそめる。
「ピッティ・ウオモに毎年行ってるから、イタリア語も結構できるって自慢してるの聞きましたよ」

ピッティ・ウオモは毎年フィレンツェで開催される世界最大のメンズファッションの展示会だ。

「自慢しないほうがかっこいいんだけどね」
冷めた口調で美奈さんがつぶやく。

「やっぱり王子が適任じゃないですか」

軽く放たれた香織さんの台詞が、ずしんと響く。

「経営企画の佐伯さん、確かに若いけど切れ者だよね。英語ぐらいお手のものだろうし。ただ経企が佐伯さんを手放すかなっていうところと、本人に行く気があるかどうかってところじゃない」

「彼ならどこでも引く手あまたですもんね」

彬良くんとわたしが幼なじみと知っていても、こちらが言わない限り誰も詮索めいたことはしない。それは編集者という気まぐれなマスコミ人種と付き合っている彼女たちの処世術なんだろう。

盛り上がっている周りの会話に、適当にあいづちを打つことさえできない。
話の内容にまるでついてゆけないことより、彬良くんがわたしになにも話してくれなかったことに、打ちのめされていた。
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