極甘同棲~エリート同期の独占欲を煽ってしまいました
週末には引っ越し業者さんが打ち合わせに来るようになって、生活はますます慌ただしくなっていった。

リビングの隅には大型のスーツケースが置かれて、その日を待っている。寂しさは募るけれど、持ち手に付けられたタグを目にすると、わたしの心は少し慰められた。

一緒に行って力になれなくてごめんなさい、と思う。でも新天地での彬良くんの活躍を願う気持ちは、誰にも負けないから。

ニューヨーク出立を一週間後に控えたある日。
仕事の引き継ぎと残務処理、送別会の連続、そして移住に関わる諸手続きに追われていた彬良くんも、ようやく一息ついたみたいだ。

もう明日からは定時に帰って来るよ、とさすがにくたびれた様子で口にする。
「そよかのおかげで、だいぶ助かったよ」

「わたしは何にもしてないよ」

「疲れてるときにご飯作ってくれると、ほんとにありがたいから」
これからは俺、自炊頑張んないとな、と自分に言い聞かせるようにつぶやく。

あれ? そうか、英語ができなくても、料理だったらアメリカでもできるんだよな・・・
今さらそんなこと考えても遅いけど。

「彬良くん、体にだけは気をつけて」やっとそれだけ口にした。
ニューヨークに出前できたらいいのに。そう思ってしまった。
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