藤堂さん家の複雑な家庭の事情

環境からの悟り

歓楽街の中でも独特の雰囲気を放つ、飲み屋が密集するエリア。


そのエリアでも一等地って呼ばれてる場所に建つテナントビルは、店舗として貸し出されてるひとつひとつのお店の面積がバカみたいに狭いのに呆れるほど家賃が高い。


そんなビルの3階。


貸し店舗の中のひとつ。


ドアに「準備中」の札が掛かってるボーイズバー【Crown】は、L字型のカウンター席があるだけの長方形の狭い店。


奥行きの長いカウンターのちょうど真上にはワイングラスを逆さまにして吊るグラスラックがいくつもあって、カウンターの内側の壁は一面棚になってる。


棚にはお酒が所狭しと並べられてて、お酒が飲めないあたしには全く分からないけど、カクテル用の洋酒が多いらしい。


その店のカウンターの中で、あたしはスツールに座って、出してもらったオレンジジュースを飲んでる。


視線の先には、今のところあたしの他に唯一店内にいる、この店のマネージャーのトワさんがいて、


「そんな事があったから、藍子ちゃんが来るの遅かったんだね」

トワさんはファミレスで起こった出来事の一部始終を話したあたしにそう言って、磨き終わったばかりのグラスをカウンターに置いた。


カウンターに並べられてるグラスを見ただけでトワさんの几帳面さが分かる。
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