藤堂さん家の複雑な家庭の事情
相変わらずの家族

夏休みの朝

息苦しさから逃れようとして身を引く藍子《あいこ》の自然な行動は、翡翠《ひすい》の両手に阻《はば》まれて未遂に終わる。


左手で後頭部、右手で腰を引き寄せられている体勢では、既に意識の半分が婬猥な熱に浮かされている藍子に出来たとしても精々僅かに顎を引くくらい。


その程度の動きでは重なっている翡翠の唇は離れず、上顎を舐め上げられる藍子の唇の端から呑み込みきれない唾液が溢れた。


「お兄、ちゃん」

ようやく翡翠の唇が離れ紡げるようになった言葉が途切れがちなのは、決して今の今まで感じていた息苦しさの所為《せい》だけではない。


翡翠を見上げる藍子の瞳は誰から見ても熱っぽく、頬はほんのりと赤く染まっている。


誰から見てもそうであるのだから、その状態を誰よりも知っている翡翠が分からない訳がない。


そうなるように仕向けた翡翠は「うん?」と聞き返しながら藍子の制服のボタンに手を掛けた。


「あたし、学校……」

「まだ時間あるだろ?」

翡翠の手が慣れたように制服のボタンを外していく。


「な、ないよ」

「嘘吐け。補習は9時半からだろ」
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