藤堂さん家の複雑な家庭の事情
「じゃあ、ちょっとお願いがあるんだけど」

『お願い? どっか行きたいトコある?』

「ううん。今日はさ、あたしの家でみんなで夕食食べない?」

『いいけど、何で? 何かあった?』

「ちょっと思い出してね」

『思い出した?』

「うん。昔の事をちょっとね。そしたらみんなでご飯食べたくなって。惣一郎も一緒に食べて欲しい」

『よく分からないけど、心実がそうしたいならするよ』

「鍋でもするかな」

『こんな真夏に?』

「暑いけど、みんなで鍋つつくのもいいかなと思ってね」

『翡翠が文句言いそうだな』

「蹴りの一発でも入れりゃ黙るでしょ」

あたしの返事に惣一郎はクスクス笑って、『じゃあ、用意して行く』と言って電話を切った。


通話の切れた携帯をテーブルに置いて、テレビを消して立ち上がった。


蝉の鳴き声が聞こえてきた。


嗚呼、幸せだな――と思った。



【心実の過去】
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