藤堂さん家の複雑な家庭の事情

予定外の出来事②

「……藤堂です」

名前を聞かれたから答えたのに、井上先生は「ああ、藤堂な、藤堂」と興味のなさそうな声で繰り返した。


教育実習が終わってから当然一度も会ってなかったけど、変わりなくというか相変わらずというか、残ってた印象のまま。


下半身は膝丈の水着で、上半身に半袖のパーカーを着てる井上先生は、右手に持ってたキャップでパタパタと自分を扇ぎながら「暑いな」と独り言のように言った。


日焼けをしてるから分かり辛いけど、額や首に結構な量の汗を掻いてる。


髪が濡れてないところから察するにプールには入ってないらしい。


暑いならプールに入ればいいのにって思ったけど、余計な事を言うのはやめておいた。


「友達と来てんのか?」

太陽の光が眩しいのか、井上先生は目を細めながら聞いてくる。


額から顎に向かって一筋の汗が流れ落ちたのが見えた。


「そうです」

「女ばっか?」

「いえ、男子もいます。入り口でクラスの子たちと会って合流したから、結構な人数になっちゃって。井上先生は大学の友達とですか?」

「俺は遊びに来てんじゃねえんだよ。バイトだ、バイト」

「バイト?」

「監視員のバイト。つってもまあ、代理だけどな」
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