藤堂さん家の複雑な家庭の事情
そう言いながら井上先生は扇いでたキャップをこっちに向けた。


見てみると、キャップのツバの上には「監視員」って文字がある。


なるほどだからプールに入った形跡がないのかと、納得出来た。


「代理でバイトしてるんですか?」

「後輩の代わりに1週間だけな。今年はするつもりなかったんだけど、頼まれたからしょうがねえ」

「去年してたんですか?」

「去年も一昨年もしてた。だから後輩にここ紹介してやったんだけど、田舎の実家に帰ってる間だけ代わってくれって頼まれてな。――つーか、そんな事より俺はお前の水着の凄さに驚きを隠せねえんだけど」

「はい?」

「最初に目についたのもお前じゃなくて水着だしな。斬新な逆ナン用か?」

「そんなんじゃないです。これしか持ってないだけです。本当は服っぽいタンキニの水着が欲しいんですけど……」

「いや、それでいいだろ。エロさが全面に出たその感じは最強だぞ。そういう感じをずっと――って、お前処女じゃねえのか」

あたしを頭の先から爪先まで観察するように見てた井上先生は、視線を何往復かさせた時に驚いたように目を見開き、「見た目は何にも知らねえ鈍臭えガキって感じなのにヤる事ヤってんのかよ」と半分呆れたような声を出す。


確信めいたその言い方に、「どうして分かるんですか?」と聞いてみると、井上先生は「見りゃ分かるだろうが」と宣った。


「体つきで分かるんだよ。間違った事言ってねえだろ? お前、処女じゃねえだろ」

「確かに処女じゃないですけど……」

「じゃあ、その水着は彼氏の趣味か?」

「彼氏はいません」
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