藤堂さん家の複雑な家庭の事情
彼の秘密
誰も知らない秘密
現在《いま》彼の周りにいる者たちの中に、彼の過去を知る者はいない。
針の穴ほどにも満たない僅かな事や、真実か否かは分からない事を知っている者はふたりほどいるが、その程度では「知らない」分類に入る。
親しい間柄の者でも彼の過去を知らない理由は、ひとつふたつある。
ただ最大にして最もな理由は、彼が自分の過去について話をしたがらないからだ。
頑なに話す事を拒む彼に無理強いする者は、現在の彼の周りにはいない。
現在の彼の周りにいる者たちは、彼にどんな過去があろうと関係ないと思うほど、彼を信頼し、親しくしている。
彼は裕福な家庭に生まれた。
大手企業を経営する厳格な父と、見る者の殆どの人間に「美人」と評される美しい母との間に、次男としてこの世に生を成し育てられた。
住んでいる屋敷は、世間一般に高級住宅地と称されている場所にあり、周りの家々と比べても大きかった。
屋敷内には使用人と呼ばれる者が何人かいたし、専用の運転手や護衛のような者たちもいた。
それほど裕福な家庭で育ったのだから、傍から見れば、何不自由ない至極幸せな子供だと思われるのも当然だった。
しかし実際はそうではなかった。
特に、母親の事が大好きだった彼にとっては、むしろ不幸な家庭環境だった。
針の穴ほどにも満たない僅かな事や、真実か否かは分からない事を知っている者はふたりほどいるが、その程度では「知らない」分類に入る。
親しい間柄の者でも彼の過去を知らない理由は、ひとつふたつある。
ただ最大にして最もな理由は、彼が自分の過去について話をしたがらないからだ。
頑なに話す事を拒む彼に無理強いする者は、現在の彼の周りにはいない。
現在の彼の周りにいる者たちは、彼にどんな過去があろうと関係ないと思うほど、彼を信頼し、親しくしている。
彼は裕福な家庭に生まれた。
大手企業を経営する厳格な父と、見る者の殆どの人間に「美人」と評される美しい母との間に、次男としてこの世に生を成し育てられた。
住んでいる屋敷は、世間一般に高級住宅地と称されている場所にあり、周りの家々と比べても大きかった。
屋敷内には使用人と呼ばれる者が何人かいたし、専用の運転手や護衛のような者たちもいた。
それほど裕福な家庭で育ったのだから、傍から見れば、何不自由ない至極幸せな子供だと思われるのも当然だった。
しかし実際はそうではなかった。
特に、母親の事が大好きだった彼にとっては、むしろ不幸な家庭環境だった。