トシノサ恋 ~永久に…君に~
こんな勝平は、初めて見た気がする。

いつも自信に満ち溢れていて

かっこよくて…強かった。

弱音なんて一度も聞いたことなくて…

いつも仕事をバリバリこなして…

優秀で、隙がなくて…

彼は、いつも完璧だった。

でも…最後に見た彼は私にとって

恐怖でしかなかった…

そんな彼が、怯えているような顔をして

私を見ている。

多分、私がこのまま拒否したら

そのまま、何もなく終わりそうだ。

本当は拒否してもよかった…

けれど、私にはそれができなかった。

「…わかった…」

私達はそのままスーパーの休憩スペースに

入った。

「…痛…」

ベンチに座る瞬間、腰がズキッと痛んだ。

「…あっ、さっきの?」

勝平が心配そうな顔を向けてくる。

…あれ

何か…懐かしい…この感じ…

……勝平…何か…昔みたいだ…

フワッ…

それは、付き合いだしたばかりの時…

「…紗和ちゃん…大丈夫?」

「あ、先輩…すみません…大丈夫です。」

私が、勝平のアパートに行って

料理をした時に包丁で指を切ってしまった。

「…俺さ、包帯と薬買ってくるよっ。」

「少し切れただけなんで…大丈夫です。」

「でも…」

そう言った彼は、本当に心配そうに

私を見つめていた。

「じゃあ、俺が切るから…」

「え、大丈夫です!

先輩は、座って待ってて下さいっっ!」

「…いや、俺がやるよっ!」

「…本当に…私がしますからっ!」

結局…私達は二人で料理をしたんだ。

あの時の優しい勝平の顔…好きだった。

「…紗和…?」

「…え…」

気がつくと勝平が私を不思議そうな顔で

見ていた。

「……な…何?」

慌てて、彼の方に向きなおした。

「…ずっと…考えてた…」

…考えてた?何を?

「…どうして

紗和にあんな酷い事をしたのか…」

「……どうして…って」

それは…私が…光くんを好きになったから…

「ごめん…

どうしてとかじゃ…ないよなっ。

俺がした事なんだ…俺が全部…壊した。

紗和にどれだけ謝っても…足りない…。

死ぬほど後悔してる…。

本当に…ごめん…ごめん…紗和…。」

彼は、私に頭を下げた。

何度も、何度も、頭を下げた。

「……勝平…顔を上げてよ…っ。」

彼は、頭を深々と下げ続けたままだ。

「俺…見ちゃってたんだ…

紗和とアイツが一緒にいた所…」

「…えっ?アイツって…」

光くんの事…?

勝平がようやく頭を上げ、私を見た。

「…あの日…休日出勤した日…

映画館から二人で出てきた所を見た…」

ドクン…

映画館…あの日のデート…見たの?

「紗和…本当に楽しそうに笑ってた…」

「………………っっ」

…あの日…私は、嘘をついた。

勝平…知ってたんだ…最初から全部…。

「…不安で…どうしたらいいのか

全然わからなくて…

とにかく、紗和に会いに行った。

紗和が離れていくのが恐くて…

ただ、繋ぎ止めたくて…」

「……………」

「俺が弱かったから…

傷つける事しかできなかった。

だから…

紗和が離れていった時わかったんだ。」

「…え…」

「もう随分前から…

紗和のあんな笑顔、見てなかったって…

でも、それを認めたくなくて…

紗和をそうさせたのは、俺…なのに…

紗和が笑わなくても…傍にいてくれたら

それでもいいって思った…

けど…あの日見た笑顔が

どうしても忘れられなかった…。」

そう言って彼はもう一度、頭を下げた。

「いつの間にか…

アイツにあんな笑顔を向けた事が

許せなくなってて…

酷い事をして、紗和を傷つけた。

紗和の怯えた顔を見る度に…

どうしようもない絶望感だった。

それでも、止められなかった…

アイツの言った通り…

俺は、どうしようもないクズだ。」

「…勝平だけが悪いんじゃない…」

私が嘘…ついたから…

「…許してくれなんて言わない…

ただ…謝りたかったんだ…

最後に、ちゃんと謝りたかった。

だから…

日本を出る前に手紙を出すつもりだった。」

勝平が私の顔を辛そうな表情で見た。

「…日本を出る?」

「…俺、来週から上海なんだ。」

「…上海…?」

あ、そうだ…栄転…

「うん…これで心置きなく行ける…

まさか、会えるなんてな…

こんな偶然…ってあるんだな…」

ガタッ

勝平が、席を立つ。

彼を見上げると、私の方を見て立っていた。

「…じゃあ…元気で…。」

「…うん…」

私がゆっくり頷くと、彼は穏やかな

顔をして笑った…。

彼の背中を見送る。

背の高い彼は、どこにいても目立った。

私は、そんな彼を目印みたいにして

いつも彼の左斜めを歩いていた。

見失わないように…

いつも、彼の背中を追いかけていた。

…勝平は私の嘘をずっと知ってたんだ。

どんな気持ちだっただろう…

信じていた人に嘘つかれて

あの日に…勝平の気持ちを踏みにじった。

バシッ…

横っ面を思いきり叩かれた気分だった。

私の罪はもう、取り返しがつかないし…

どうすることもできない。

それに私も彼に酷くされたんだ。

お互い様なんだ…

もう、今更…どうでもいい事だ。

全ては、終わってしまった事なんだ。

私と勝平…そして、光くん…

狂いだした歯車は止まらない…。

でも…
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