トシノサ恋 ~永久に…君に~
アパートに到着すると紅を部屋に放してあげ、

ミルクとツナ缶をあげた。

「このアパート、ペット可でよかった…」

私がそう呟くと…

「あっ、そうか…考えなく連れて来てごめん…

紗和…きっと心配してるかなって思って…

会わせてあげたくてさ…」

光くんが申し訳なさそうに言った。

「うん…ありがとう…紅…見つかってて

本当に良かったよ…

光くんの側にいられてたんだね…

ありがとう…」

そう言って私は、彼に笑顔を見せた。

「…うん」

彼は私の顔を見て嬉しそうな表情をする。

「あ、晩御飯…何食べる?

もう遅くなっちゃったよね…」

キッチンで冷蔵庫を見ていると

「じゃあ…久しぶりに俺が作るよ…」

彼が私の横に近付いて、冷蔵庫の中を見た。

「え?いいの?」

「うん、今日、泊めてもらうお礼…」

「あ、うん…」

ドキン…ドキン

光くんが泊まるなんて…初めてだ…

その後、彼が

厚焼き玉子、味噌汁、野菜炒めを

作ってくれた。

どれも美味しくて本当に嬉しかった。

そして…

私がキッチンで洗い物をしていると

「紗和…お風呂ありがとう」

そう言いながらキッチンの私の隣に立った。

「熱くなかった?大丈夫だった?」

「うん…ちょうどよかったよ…」

「何か飲む?冷蔵庫にお茶入ってるから…」

「ありがと…」

彼が冷蔵庫からペットボトルを取って

隣で飲んでいる横顔を見上げると

ちょうど喉仏が見えた。

うわぁ…やっぱ…光くん男の人だ…

ドキン…

胸の鼓動を知られたくなくて

平常心を装うのに必死だった。

「お風呂入ると…喉乾くよね」

そう言って、洗い物を拭き出すと

ギュッ…

えっ…

私はいつの間にか彼に後ろから

抱きしめられていた。

「…光くん?」

ドキン…ドキン…

「やっと…つかまえた」

「…え」

「…もう離さない」

光くんが私の首筋に唇を沿わせた。

きゃっ…

「…チュッ…」

「…ダメ…私…汗臭いでしょ…」

急に…こんな展開…ど、どうしよ…

「いい匂い…紗和の匂いがする…」

「…や…やだ…」

そう言って私は、光くんから逃げようとすると

ギュッ…

今度は前向きに抱きしめられてしまった。

「ちょっ…だめだよ…洗い物の途中だから…」

私が必死に彼を遠ざけようとすると

「わかった…じゃあ…

終わるまでおとなしくしてるよ…」

私の必死さが伝わったのか彼はリビングのソファにおとなしく座った。

「………」

終わるまでって…終わったら…どうなるの?

私…まだ心の準備が…

お風呂に入ってリビングに行くと

彼はソファにクッションを枕みたいにして並べて
いた。

え…これって…

「あ、光くん…どうしたの?」

「あぁ…紗和…俺と一緒に寝るのが

もしかしたら嫌かなって思ってさ…

俺…ここで寝るから紗和はベッドに

寝ていいよ。」

そう言って彼は笑って横になった。

「え…そんな」

もしかして、さっき…私…避けたから?

光くん…傷ついた?

「光くん…ごめん…嫌だなんて…

…嫌なわけないよ…」

私はそう呟く…

「…え?本当に?」

光くんが起き上がって私を見つめた。

「あのね…私…本当はずっと

気持ちの整理ができてなくて…

光くんとはもう会えないって思ってたから…

まさか…こんな風になるなんて思ってなくて…

実際にこうなってみると…何か怖くて。

バカみたいだよね…

いい年して…ごめんね…」

そう言って彼を見つめた瞬間…

ギュッ…

光くんが私を抱きしめていた。

「俺の方こそ迎えに来るの…遅くなってごめん…

ずっと待たせて、一人にしてごめん…

もう、一人にしないって約束する…

ずっと一緒にいよう…?」

彼の優しい声が昔みたいに

胸に染み込んでいく…

「…私…いいのかな?」

私は、彼の気持ちを本当に

受け入れていいのかわからずにいた。

チュッ…

彼が私のオデコにキスをする。

目と目が合い私は彼を見つめた。

目の前の彼は紛れもなく男だった。

高校生のまだ少年ぽさが残る光くんではない。

昔…二人で初めてデートした時…彼が

"一人の男として"と言ったのを思い出した。

彼は、今…まさにその通りだ。

「…紗和…」

彼が私の顔を優しく撫でるように触る。

私の心を探るような眼差しで私の表情を

見つめていた。

「……紗和…?」

彼が私の名前を優しく呼んでいる。

かすかに首を傾げるように…

まるでずっとお預けされている忠犬のような瞳

をしていた。

「…光くん……私なんかで本当にいいの?」

私がポツリとそう言った瞬間…

フワ…

「…え??」

私は、抱き抱えられ、お姫様抱っこを

されていた。

「…どうしたの?」

え…何?

光くんが私を抱き抱えたまま

寝室のドアを開け…ベッドにゆっくりと下ろした。

「…光くん?」

私がベッドに座り直すと、彼はそのまま

私の左手を取りその場に膝まづく。

「……………?」

え…え…え?

呆気にとられていると、光くんが私を見上げて微笑む。

Tシャツに短パンなんてラフな格好を

しているのにその表情は

さながら何処かの王子様みたいに

キラキラしている。

「…奥平紗和さん…」

「は、はい…」

「これから僕は…何があっても一生…

あなたを愛し守り続けます。

だから…お願いです。

これからは、ずっと…

あなたの笑顔を僕だけに向けて下さい。」

え………

彼は私の手を取ったまま膝まづいて

待っている。

「…どうか、はい…と」

光くんが絞り出すような声でそう付け加えた。

これって…プロポーズ…だよね?

ドキンドキン…

私が、光くんの奥さんになるってこと…?

…私で…本当にいいの?…

不安な気持ちが募っていく…

私は、彼より10歳も年上なんだよ?

もう32歳だし…彼はまだ22歳…

この距離が縮まる事はない。

彼には相応しい人がまだまだ現れる…

私が断れば…それで終わる話だ。

好きだからこそ、幸せになってほしい。

誰よりも大切だから…

私を好きって言ってくれて

こんな素敵なプロポーズまでしてくれた…

もう十分すぎるよ…。

もう一度会えて良かった…。

ポツリ…

彼の手に私の涙が落ちた。

「…ありがとう…光くん…

本当に嬉しかった…ありがとう…

会えて良かった…私…幸せだった…」

「…紗和?」

光くんの声が少し不安そうになる。

「…ごめんなさい…」

そう言って私は、彼の手をゆっくりと離した。

その瞬間…

ガシッ…

急に私の手を強く掴んだ。

「…やだ…離さない………っっ」

彼は子供みたいに言い放つと

両手で私の顔を強引に挟み

乱暴にキスをした。

彼のこんなキスは初めてだった。

「…や、光…んっっっ」

彼が何度も何度も深いキスをして

お互いに息が苦しくなっていく。

「…はぁ、紗和…紗和…紗和…」

彼が何度も苦しそうに私の名前を呼んでいる。

「…光くん…」

私が、無意識に彼の首に腕を絡めた時…

「‥紗和…俺を離さなでよ…」

彼がすがりつく様な声で私の髪をクシャっと優しく掴む。

彼の手が心地いい‥。

キスをされる度にいとおしさが溢れてくる。

「…こ、光…」

いつの間にか彼の名前を呼び捨てにした時…

「さ…紗和っっ…」

急に彼の様子が落ち着かなくなっていく…

バサッ

ベッドに投げつけるような音…

その音で目を開けると、彼はTシャツを脱いで

引き締まった上半身が露になっていた。

「えっっ…」

彼の瞳は、熱を帯びていていつものと違う…

「ごめん……限界…っ」

そう言って彼は私のシャツを間繰り上げ

下着を脱がしてくる…

「きゃっ…や…だめ…まって…」

チュッ…ペロッ

彼は私の体にキスを降り注いでくる。

「…光くん…ちょっ…まって…あぁ…ん」

思わず、変な声が出てしまう…

「…紗和…可愛い…もっと…聞きたい…」

チュッ…チュッ…チュッ

「…ん」

ダメ…まって…

そのまま、彼の手が下に伸びていく…

あっ…ダメ‼

ギュッ…

とっさに、彼の腕を掴む。

「…光くん…待って」

戸惑いで頭がクラクラする…

彼は私の顔に優しくキスを繰り返し

彼の手が下着の中にたどり着く。

「や…ダメ」

…彼が下着越しに何度もキスをする。

…チュッ…チュッ

「紗和…本当に可愛い…俺の紗和…」

彼の細くて長い指が私の身体を這う。

光くん…だめ…私…離れれなくなるから…

「……ん…だ…め…やめて…」

切なさで胸が苦しくなる…

涙が頬を伝う…

「…うっっ…うぅ…」

涙が止まらず嗚咽になっていく…

「え…紗和…??!」

彼はようやく気づいたのか

体を起こして私を見つめた。

「…紗和…え?…ごめん…嫌…だった?

本当に嫌だと思わなくて…っつい…」

「ち、違う………嫌…じゃない…だけど

これ以上したら私…あなたを諦めれなくなる…

離れれなくなる…幸せになってほしいの…

私とじゃ…幸せになれない…から」

「…紗和…」

「光くんに…幸せになってほしいから…」

そう言って泣きじゃくる私を

優しく抱きしめながら彼が耳元で言った。

「紗和じゃなきゃ…

俺は幸せになれないよ…紗和がいい…

他の誰かなんて考えられない…

紗和以外の女なら結婚しない…

紗和がいない世界なんてもう無理…」

「…え」

"紗和がいない世界なんて無理…"

あの日の記憶が一気に蘇ってくる。

私が彼の顔を見上げると

光くんは、いつもみたいに優しく笑った。

「…本当に?」

「だから、ずっと紗和がいいって

言ってるだろ?

もう、俺はずっと紗和だけだよ。」

ずっと一途に私を待っていてくれた…。

「…だって…10歳も年上だよ?」

「……知ってる…」

「…本当におばさんになっちゃうよ?」

年上なのに、いつも守られてた…

全力でぶつかってきてくれた人…。

「アハハ…いいよ。紗和なら可愛い……

めちゃくちゃ太ったおばさんになっても

俺は好きだよ。」

嘘がなくて、真っ直ぐで…

「…めちゃくちゃ太らないから!」

そう言って膨れると…

ポンポン…

彼は優しく頭を撫でてくれる。

そんな彼に私は恋をしてしまったんだ…

「わかってるよ…

じゃあ今度…プロポーズしたら

ちゃんとオッケーしてくれる?」

光くんが私の顔をのぞき込むように言った。

「…また、してくれるの?」

「当たり前…今度は、紗和が断れないように

公衆の面前で派手にやろうかな。」

「えっっ!?」

「アハハ…嘘だよ。でも、ちゃんとするから…

紗和もちゃんと返事して?」

「うん…」

そう言って光くんは、私を優しく抱きしめた。

「紗和…」

「うん?」

私は、ゆっくりと彼の方に向きを直す。

そんな私を嬉しそうに優しく見つめている光くん。

「何?どうしたの?」

彼を不思議そうに見上げると…

私のオデコに優しくキスをしながら

「紗和…俺の隣でずっと紗和の可愛い

笑顔見せて…

そしたら…誓うよ…

…"永久に君に僕の愛を捧げる"……って

ずっとずっと…紗和は俺の特別…」

そう言って光くんは、私をもう一度ギュッと

抱きしめた。

私…今までずっと

何かを自分から決めたり

犠牲にしてまで何かを欲しいと

思ったことなかった…

でも、彼と出会って…

いつもの景色が全然違うように感じて

見るもの全てが鮮やかに彩られて見えた。

彼と一緒にいるといつも素直になれた。

自然と勇気が湧いてきたんだ…。

こんな風になれたのは全部…

彼が私に大切な事を教えてくれたから…。

だからこの恋をあきらめたくなかった…

…私は、この狭い世界から

連れ出してくれる人を

ずっと待っていたのかもしれない…。

彼と出会って…恋をして…

初めて知ったんだ…こんな気持ち…

誰かをこんなにも恋しいと想うことを…

誰かを想う事がこんなにも嬉しいなんて…

この恋を彼を…諦めなくていいの?

彼に愛されたいって望んでもいいんだ?

「紗和…?どうしたの?」

光くんが私の顔をそっとのぞき込んだ。

「……光くん…好きだよ。」

そう言って私は、光くんの頬にキスをした。

彼は、少し驚いたような顔をしたけれど

直ぐに、あの大好きな笑顔で言ってくれた。

「俺も…大好きだ」

その瞬間…

彼は私を抱き寄せて…キスをした。

再び深い波にのまれていく…

今度は‥もう迷わない‥。

彼のすべてを受け入れたい‥そう強く願った。

‥幸せな気持ちが溢れていく‥。


…遠くから

紅の鳴き声がする。

…あの日、雨の中…

光くんと出会えて良かった…。

紅が…彼を私の所に連れてきてくれた。

彼と出会わせてくれてありがとう…。
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