ホテル御曹司が甘くてイジワルです


「たしかに。この座席は開館当時から使っているからなぁ」

清瀬さんから言われたことを伝えると、館長は腕を組んで「盲点だったね」とうなった。


私も館長も、いつもコンソールに立つだけで、座席に座って星座を見ることがなかったから気づかなかった。

清瀬さんにからかわれたことに動揺して頭に血が上ったけど、冷静になると彼の言うことはとても正しい。
せっかく綺麗な星空を見られても、ギシギシ耳障りな音をたてる座席じゃ気が散って心から楽しめないし、もう一度来たいとも思わないだろう。

「座席を交換したりは……」

言いながら館長の表情をうかがうと、もちろん渋い顔。

「難しいね」
「ですよね」

プラネタリウムの座席は、映画館や劇場で使われる一般的な座席とは違い、設置する場所によってリクライニングの角度の細かい調整が必要になる。
それに対応した専用の座席を使わなければならないから、もちろん高額だ。

ふたりで顔を見合わせ、ため息をつく。

「たくさんの人に来てもらうにはどうすればいいんでしょう」

途方に暮れてつぶやくと、館長は難しい顔をした。

「有名キャラクターやアーティストとコラボした独自のプログラムを作ったり、最新のデジタル技術を使った施設。人気のプラネタリウム施設は色々あるけど、その施設の真似をしようとしても、それだけじゃ意味がない」
館長の言葉にうなずく。最新技術だっていつかは古くなるし、プログラムだっていつかは飽きられる。
「そうですね。この『坂の上天球館』にしかない、なにかを作らないと」


そのなにかはいったい何なんだろう。
それを見つけないと、この場所を守れないんだ。

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