ホテル御曹司が甘くてイジワルです


「ありがとうございます」

頭を下げながら受け取ると、「夏目さん。あまり、無理をしなくていいからね」と穏やかに言う。

「別に、無理してないですよ」
「そうかい。最近目の下にクマがあるように見えるけど」

そう言われ、慌てて手で目元を隠すと笑われてしまった。
家に帰ってもプラネタリウムのことばかり考えて、なかなか寝付けずにいることを見抜かれてしまったようだ。

館長もプラネタリウムを存続させるために、地元だけではなく、隣接する地域の教育委員会にこの施設を売り込んだり、新しいパンフレットを作ったり、いろいろ手を尽くしてくれている。
ふたりで頑張ってはいるけど、なかなか好転しないのがもどかしい。

「館長は、どうして前のオーナーから『坂の上天球館』を買い取ったんですか?」

六年前、私がここに来る前までは館長はひとりでここを経営しすべてをこなしてそうだ。
こんな施設を個人で買い取り運営しようと思うなんて、ものすごい大きな決断だっただろう。

私がカフェオレに口を付けながらそう聞くと、館長は小さく首をかしげて笑った。

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