冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
了も気づいたに違いない。舞塚さんのメイクやファッションが、わずかに変化していたことを。無理な幼さが消え、彼女自身に似合うものになっていた。

満たされると、人は強くも優しくもなれる。単純だけれど、真理だ。

新たに我々を悩ませている"記事"とは、ある会社の粉飾決算に、ソレイユ・インターナショナルが加担したという報道だった。

そして悪いことに、加担する目的があったかどうかは確認中だが、指摘された取引が存在したこと自体は事実だと、調査に応じた了も認めたのだった。

ただしその取引が行われたのは、了が社長に就任する前のことだ。代表にすらなっていない、速水社長からその次の社長に交代になった直後の、インターナショナルの"空白の時代"と言われている期間中に起こった。


「当時の社長とは連絡はとれたの?」

「いや、逃亡中。会計士のほうは見つかったみたいだ。当時、両社とも同じ会計士が見てたんだよ。でもまあ、巨大企業でもないから額も額だ。刑事責任を問われることはないと思うんだけど……」

「だったらどうして、わざわざ報道されたか、よね」


スプーンをくわえた了が、残念そうにうなずく。

どう考えても、先日の了のゴシップの影響だ。あれに関連づけて『ホールディングスの御曹司、会社を私物化』みたいにおもしろおかしく書いたメディアが多かった。経済紙は、過去の粉飾が発覚した事実を、シンプルに伝えただけだ。本来なら、そのくらいの取り上げかたがふさわしい。


「百合さんにも調査の手が伸びてる。迷惑かけちゃったな……」

「了が気に病むことじゃないって、速水社長も承知よ。むしろ『あんなポンコツに会社を任せた私の責任』って嘆いてた」


了はなにも言わず、私の気遣いに感謝していることだけを、力ない笑顔で伝えた。ふいに「ん」と胸に手をあてた。電話だ。

携帯を取り出した了は、はっと表情を硬くした。


「……父さんだ」

「えっ」


このタイミングで、事件と無関係の連絡なわけがない。緊張の面持ちで「了です」と応答する了を、私は固唾をのんで見守った。

短いやりとりで通話は終わった。了は「はい」「わかりました」と従順な相づちを打っただけだった。


「話があるから、近いうちに家に来いって」

「そう……」

「できたら早織と恵の顔も見たいってことだけど……どう?」
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