冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「早織も食べる?」

「ううん、私はおなかいっぱい。ついでにこれもスライスして」


私は了にタマネギを切ってもらい、ベーコンとさっと炒めてスープを作った。

ひとりぶんの食卓はすぐに整った。


「俺、帰る時間を連絡したほうがいいね」

「そうね。どちらかというと、夕食が必要かどうかを知りたいかも。恵と食べきっちゃうこともあるし」

「そうか……それって何時くらいまでに言えばいい? いただきます」


どうぞ、と対面に座りながら、私はうーんと考えた。


「五時半には作りはじめるから、その頃かな。でも買い物はもっと早い時間にしたいし、まこちゃんにお願いしておくときもあるし……。四時には見通しが立ってるとベストだけど……」

「四時かあ」


了も悩ましげな声をあげる。私も終わりの読めない仕事をしていたからわかる。そんな時間に、その日の夕食の予定なんて決まっていない。

見るからに育ちのいい仕草で食事をとりながら、了が思案げな声を出す。


「とりあえず、家で食べるときはなるべく早く連絡するよ」

「食べないときも知りたいけど……それってつまり、毎日夕方にその後の予定を私に教えるってことよね」

「それ、俺、鬱陶しくない?」


帰宅し、まこちゃんと入れ替わり、遊びたい時間帯の恵の気をそらしつつ夕食の準備をするという一日でもっともてんやわんやのタイミングに、了から夕食要不要のメッセージが来ることを想像し、私は「鬱陶しい」と心から言った。

了が悲しそうに「そう言わないでよ」と肩を落とす。


「自分で言ったんじゃない」

「でも食材を無駄にせず、なるべく顔を合わせて食事をするには、必要なすり合わせだよなあ」

「みんな、どうしてるのかしら」


ねえ、とふたりで息をつく。大人ふたりが寄り添って暮らそうとすると、こんなにも約束事が多くなるのか。すでに、洗面所のタオルを替えるタイミングだとか掃除当番だとか、あれこれ決め事ができつつあるのに。
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