冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「そうだ、ジョージから聞いたよ、例の人、真琴さんの店の客なんだって?」

「そうなの。今度お店に来たら知らせてもらうことになってる」


まこちゃんの勤めるバーは、ここから車で三十分ほどだ。とはいえ……。


「とっ捕まえに行けるのは私か了か、どちらかよね……」


だれかが恵を見ている必要があるので、私、了、まこちゃんの三人が一度に外出するというのはあり得ない。


「まあ俺だろうね、車も出せるし」

「私だって運転できますけど」

「はあ? じゃあ今から首都高乗って中央環状線でも走ってきてよ。"免許を持ってる"と"運転できる"は同義じゃないよ、しっかりして」

「そこまで言う!?」


頭にきて、了の足を蹴った。了が「いて」と声を立てて笑う。久しぶりにそんな顔を見て、なんだか急にほっとした。

かつてデートを重ねていた頃、ドライブに出かけた先で、駐車の練習をしたときのことを思い出した。了は遠慮なしに私のセンスのなさを笑い、『どうやって免許を取ったの?』とまで言った。


『努力の末によ、決まってるでしょ』

『奇跡はもう起きないよ、あきらめたほうがいい』


勘さえ取り戻せばなんとか、と思っていた私は自分に落胆し、ふて腐れた気分になっていた。


『もういい、やめる。了が運転して』


腹立ちまぎれにシートベルトをはずし、ドアを開けて出ようとしたところを、引き戻される。私の肩を背もたれに押しつけ、なんの脈絡もなく了は私にキスをした。


『うん、俺が運転するよ、いつだって』

『なに……』

『だから、ずっと俺の隣に乗ってなよ』


遠慮がちなくせに、自信家だった了。たまにいきなりこういう強気な発言をしては、あとで自分に照れていた。


「ねえ、思い出し笑いするのやめてよ、こっちが恥ずかしい」


気づいたら了が正面で顔をしかめていた。しまった。当然ながら、私がどんな場面を思い出していたか、了もわかっているはずだ。
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