冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「……連絡していい?」

「好きにしたら。番号もIDも、特に変えてないわ。早織もでしょ?」


私はうなずいた。切れたと思っていた糸は、ちゃんとつながっていた。砂に埋もれて見えなくなっていただけだ。今、再びピンと張って、その姿を現した。

コンビニを出たところで、真紀がこちらを見た。


「あなたに謝りたいわ。罪滅ぼしのためじゃなく、限りなく近い世界から、限りなく近い現代社会の地獄に落ちた、同士の名乗りとして」

「妊娠も出産も子育ても、千差万別よ。思ってるほど近くないかも」


とぼけた私に、真紀が笑う。


「同じ体験をしなきゃ理解できないなんて、出版にかかわる人間として失格よね。想像の世界へ飛び立つきっかけを売るのが仕事なのに」

「みんなそうよ。そして喉元過ぎたら忘れちゃう。私も、今望まぬ妊娠で悩んでる人がいたら、がんばってねお気の毒、くらいにしか思わないかも」

「早織はそんな人じゃないわ。だから私の副編になってほしかったのよ」


その声は、心からの評価に聞こえた。

私は胸の隙間をトンと突かれたような気がして、「ありがとう」と無意識に返していた。一緒にいた頃は聞く機会のなかった、真紀の私に対する評価。


「じゃあね。これ、ごちそうさま」


ココアのペットボトルを軽く振ってみせ、真紀はマンション群のあるほうへ歩いていった。




走って戻った私と入れ替わりに、慌ただしく了は出ていった。


「気をつけて、無茶しないでね!」


すれ違いざまにかけた声に、「うん!」と高校生みたいな返事がくる。了は食器を片づけておいてくれていた。直前まで仕事をしていた気配のあるダイニングテーブルで、私は買ってきたばかりのSelfishを開いた。

さっき聞いたタイミングだと、この号はもう、真紀はかかわっていないはずだ。

それが先入観になったわけじゃなく、中身はたしかに変わっていた。わずかな変化だけれど、わかる人にはわかるだろう。そして真紀の編集長時代をよく知っている私には、この変化に、真紀の編集に対する否定が込められていることもわかる。
< 116 / 149 >

この作品をシェア

pagetop