冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
昼食会自体は一時間半ほどで終わるはずだけれど、そのあとどんな流れになるかわからない。私自身はすぐに帰ってくるつもりだったから、了の予定をとくに気にしなかった。

私たちはいまだにお互い、相手のスケジュールを把握することに不慣れだ。

まこちゃんが私の肩を優しく叩いた。


「だれもさおちゃんを責めないよ。もし責める人がいても、さおちゃんは自分を責める必要はない。私はさおちゃんの味方だからね」

「……うん」


力なく笑う私を、まこちゃんはぎゅっと抱きしめ、キッチンへ行った。

三十分ほどすると、恵はぐっすり眠った。ずっと身体を丸め、落ち着かなそうに体勢を替えていたのが、今は大の字になっている。楽になった証拠だ。ほっとした。


「まこちゃん、やっぱり私だけで大丈夫そう」

「ほんと? じゃあこれ仕上げたら失礼するね。家にいるから、なにかあったら呼び出して」


いい匂いがリビングを満たしている。まこちゃんの作る家庭料理の匂いだ。私は昔からこの料理で育った。

まこちゃんが帰ると、家の中はしんと静かになった。

私は再び本を開いたものの、内容はまったく頭に入ってこなかった。

昼食会に行かなかったことは、正しかったんだろうか。了に恥をかかせなかっただろうか。お父さまの面子をつぶさなかっただろうか。

恵はとくに病名のつく症状ではなく、身体を休める薬と解熱剤を処方された。結果的にはやっぱり、私はいなくてもよかったのかもしれない。

たとえば昼食会のだれかに子どもの容態を聞かれたとして、ただの熱です、と答えることは、どんな反応を引き起こすんだろうか。いっそもっと重篤な病気なら、と一瞬考えた最低な自分は、たしかに存在する。


──帰りたいから帰るんじゃない、帰らなきゃいけないから帰るの。


以前はああ言ったくせに、今は逆だ。恵のそばにいたかったから、昼食会を放り出した。いる必要があったから、とは言いきれない。

都合でころころ言いぶんを変える。煙たがられて当然だ。祥子さんが言っていたとおり、子どもを言い訳にすれば、私を責められない。

たとえ私が義務から逃れ、さらに批難からも逃れることで、二重に苦しんでいたとしても、それは他人には関係ない。

"優位"に立つ切り札を持っているのは、たしかだ。
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