冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「こっちが暖かくなったら、母が了に会いに帰ってくるって」

「俺に? 早織と恵じゃなくて?」

「了によ。電話で興味を持ったみたい」


数年ぶりに電話をし、結婚の報告をしたのだ。恵が産まれたこともそのとき知らせた。母は『やだ、言いなさいよ』と驚き、子ども服をどっさり送ってきた。

そのほとんどが、季節とサイズを鑑みると恵には着る機会のないものばかりで、母の子育てへの無関心さを表していたけれど、不思議と祝福の気持ちは伝わってきた。私も大人になったのかもしれない。

了は、ふうんと相槌を打ち、恵を片腕に抱え直す。


「楽しみだね」

「そうね」


まこちゃんは会いたがらないかと思ったのだけれど、『ほんと? 日程調整しよう』と笑っていた。長く会っていなかったせいで、互いに抱いていた感情を忘れてしまった。いや、もしかしたら、感情そのものが変化したのかもしれない。


「んっ、ちょっとごめん。……はい」


了が恵と自分の間に手を突っ込み、携帯を取り出した。


「どうしたの。うん……前に聞いた件だね。うん、わかるよ、でもね……」


携帯に手を伸ばす恵を引き取った。了が空いた手で、ごめん、というジェスチャーをする。話しぶりからして、インターナショナルのマネージャーか、所属タレントからだと思われた。

最近この手の電話がよくかかってくる。新しい社長がみんなと合わないらしい。新社長はグループの別会社からつれてこられた門外漢だ。経営だけする約束だったのに、マネジメント業にも手を出しはじめて現場は大混乱とのこと。

真紀からも『噂を聞くわよ、大丈夫なの?』と連絡が来たくらいだ。


「はーっ」

「人気者は大変ね」


疲れた顔の了は、携帯をしまい、困ったように笑った。

彼のところには『戻ってきてほしい』という泣きつきが絶えない。了は悩んでいる。新しい仕事にも集中したいし、人が入れ替わったあとは少なからず摩擦が起こるもので、そこを乗り越える力も必要とわかっているからだ。
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