冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています

そのへんに立っているだけで人を振り向かせるような、バランスのいい長身と、なんとも感じよくあっさり整った顔立ち。よく言えばおおらか、悪く言えばちゃらんぽらんな性格を反映して、浮かべる表情は明るく、見る人をいい気分にさせる。

着ているスーツは、仕立てのよさがひと目でわかるフルオーダーだ。この暑い日にもスリーピースをきっちり身につけ、今はベスト姿。二年前から体型も変わっていない。必要なだけの筋肉がついた、程よくスリムな身体。

私が人生の岐路で右往左往し、あらゆるものを手放し、絶望に泣いていた間、なにひとつ変わらず、失わず、笑っていたに違いない男。


「俺の話もしていい？」

「もう休憩時間が終わるから、また今度にして」

「それ、もう一回チャンスをくれるってこと？」


了の目が輝いた。しまった。会うのはこれきりという約束でここへ来たのに。


「それは……」

「俺、早織の仕事が終わるまで待ってるから」

「はあ？　忙しい忙しいってろくに連絡もよこさなかったわりに、その気になればずいぶん自由に時間をつくれるのね」

「今そんな話をしたって意味ないだろ」

「意味はなくていい。私はただ、腹が立ったからそれをぶつけてるの」

「出た、感情と理性の間の女……」


ストローを噛みながら、ぶちぶち文句を垂れている。

私は、カフェの迷惑にならない程度にばしんとテーブルを叩いた。


「はっきり言って。なにをしに来たの？」


教師に怒られた生徒みたいに、了がびくっと背筋を伸ばし、視線をうろうろさせた。それから、話すべき文言がテーブルに書いてあるのを見つけたみたいに、じっと一点を見つめて、ふと顔を上げた。

まっすぐな眼差し。

あの頃と、少しも変わらない。

そして気づいた。べつに了は、みすぼらしく変貌した私を見たくなくて目をそらしていたわけじゃない。なにか告げたいことがあって、緊張していたのだ。