冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「あげてみる? まだ自分でうまく食べられないの」

「……いいの?」


了は控えめに目を輝かせ、いそいそと恵の前に移動した。

私は食事風景をつかの間見守り、タオルや着替えを出してお風呂の準備を始めた。




「早織、帰ってきてから一度も座ってないよ」


ようやく恵を寝かせ、引き戸を閉めたとき、了が案じるような声を出した。


「そうだった?」

「そうだよ……。仕事でも立ちっぱなしなんでしょ?」

「これが私の、今の日常なのよ」


あてつけのつもりではなかったのだけれど、了はそれを聞いてはっと瞳を揺るがせた。傷ついたのか、罪悪感が芽生えたのか。

私はまとめていた髪をほどき、自分のグラスに麦茶を注いで、了の隣に座った。了のグラスにも継ぎ足す。


「夕食、とらないの?」

「そうだ、今日はお惣菜とお弁当があるんだっけ。うれしい、今出すわ」


すぐにまた腰を上げようとした私の手を、了が掴んだ。


「こんなに慌ただしくて、いつもはどうしてるの?」

「夕食? 省いちゃうことも多いかも。でも食べるときもあるし」


なぜか言い訳しているような口調になった。

了はこちらをじっと見上げ、私を座らせて、入れ替わりに自分が立ち上がった。


「俺が出すよ。台所、勝手に使うね」

「うん……」


鴨居の低い、昔ながらの設計の室内は、了には窮屈そうだ。ワイシャツの袖をまくりながら台所へ入る背中を、私はクッションを抱えて見送った。

了の仕事は完璧だった。カツや総菜を丁寧に温め、うちにある食器を活かして美しく生まれ変わらせてくれた。チンジャオロースやひじきの煮物も、プレートに少量ずつ並べると、まるでおしゃれなデリだ。
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