冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
抱えたひざの向こうに、自分のつま先が見える。ペディキュアすら塗っていない、すっぴんの爪。


「了は責任を感じてるだけかも」

「そうは見えなかったけど」

「きっと昔の私のイメージを引きずってる。今の私と暮らしたら、どこかで目が覚めるかもしれない」

「今のさおちゃんは、目がくらむほどの存在なわけ?」


うっと言葉に詰まった私の顔を、まこちゃんが腰を折ってのぞき込んだ。


「さおちゃんには、昔のキラキラした時代を知っていてくれる人が必要だよ。了くんは、今のさおちゃんのことも、目をそらさずにしっかり見てたよ」


母に似て、線が柔らかく丸みのある顔がにこっと笑う。「じゃあ、行ってきます」と手を振って、まこちゃんは出ていった。

私はそれからさらに少し考え、テーブルの上の携帯に手を伸ばした。消していなかった番号。着信拒否以外の目的でまた使う日が来るなんて思わなかった。

呼び出し音が聞こえる。


──たぶん早織の妊娠がわかったのと同じ頃、父が倒れたんだ。


了がそう説明しだしたとき、私はびっくりした。そういう話が出てくるとは思わなかったからだ。彼の父親は、命に別状はなかったものの、後遺症で歩くのに難儀するようになったらしい。

そこで引退することにした。長男である了は対応に引っ張り出されて大わらわ。そして本人が『嫌な予感がした』と言っていたとおり、"結婚して跡継ぎをつくれ"の攻勢が始まった。
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