冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
狭間家の歴史は古くない。了の祖父が創業した広告代理店が、ソレイユグループの原点だ。二代目である了の父親が事業を拡大し、このままいけば了は三代目として君臨することになる。とっとと結婚しておけと言われるのも当然だ。

見合い話が持ち込まれるようになり、了はあせった。自分には結婚したい女性がいるのだと両親に説明した。ちなみに私のことだ。


『ならつれてこいと言われた。でも俺は、その時点ではまだ早織になにも言ってなかったから……』


私は愕然として聞いていた。すべてがつながった気がした。

了は"あのとき"、私にプロポーズをする気でいたのだ。

ダイヤモンドのペンダントをくれた日。私たちが、最後に会った日。

そして私のほうは……。


『あの日ね。私、あのとき……』

『子供ができた、って教えようとしてくれてたんだよね。ようやくわかった』


人生の分かれ道というのは、本当にあるのだ。それまで一本に見えていた道が、パリッと二手に分かれ、どちらかに一歩踏み入れたら、もうもとには戻れない。


──見合いをすることになったんだ。それでね……。


了はあの日、そう言ってペンダントを差し出した。私は妊娠がわかってからこのときまで、何度も了に連絡をとろうとしていた。会えない、忙しいと流されるばかりで、ようやく約束をとりつけたのは二カ月後。

日々お腹の中で育っていく命に、どう対処していいのかわからず、それを決めるためにも了と話し合いをしたくて、あせりと不安でおかしくなりそうだった。

はじめて抱き合った直後から、突然会ってもらえなくなった。それはもう、避けられているとしか思えないほどで、実際私はそう受け取った。

そこに持ち出された、お見合いの話と、いきなりのプレゼント。


──手切れ金として受け取っておく。


私はレストランを飛び出して、了からの連絡を一切断った。

それから数日間、考えに考えて、決めた。結婚はしない。ひとりで産む。
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