冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「初対面の方の前で泣くなんて、私もはじめてよ」

「気が張ってたんだね」

「ご両親は結婚に前向きだって、了も言ってたのにね」


挨拶すると決めてから、どうしても肩に力が入っていた私に、了は何度もそう言って、『心配しなくていいって』と安心させた。

そりゃ実の息子は気楽よね、と思ったりもしたんだけれど、今日の様子を見ていて、本当に心配無用だったのだと知った。

「そうじゃなくてさ」と了が首を振る。


「え?」

「恵を育ててる間、ずーっと、誰も早織に、大丈夫だよとか、うまくいってるよとか、言ってあげられなかったんだね」


また涙がこみ上げてきたので、ぎゅっと喉の奥に力を入れてこらえた。


「……まこちゃんは言ってくれてた」

「でも、真琴さんならそう言ってくれて当然って、早織は受け取っちゃうでしょ」


そのとおりだ。


「了って、怖いくらい私のことわかるよね」

「早織も俺のこと、けっこう見抜くでしょ。だから俺たち、あんなに一緒にいたんだよ。忘れちゃった?」


十月に入って、ようやく空気が秋めいてきた。上着を客間に置いてきた了が、ベスト姿でうーんと伸びをする。

思い出したよ、と私は心の中で答えた。

了は小道の左右に咲いている、淡いサーモンピンクのばらの花を指でくすぐった。


「ひとりでがんばらせて、ごめん」

「了も大変だったんでしょ。家の中、ほとんど新しくなってるじゃない」


間口の広い玄関、ガレージから続くスロープ、ゆったりした幅の廊下に手すり。今でこそ落ち着いて見えるけれど、彼ら夫婦の日常生活は一度ひっくり返ったのだ。両親と仲のいい了の心痛と苦労はどれほどだったか。

了が足を止めた。ばらの花を見下ろす横顔は、考え込んでいるふうでもあり、ぼんやりしているようでもある。
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