冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「了?」

「もう、ひとりじゃないよって」


遠慮がちな微笑みが、こちらを向いた。


「言う権利、俺にあるかな」


了が手放さずに、持っていてくれた未来。一緒に行こうと誘ってくれた未来。

ばらの甘い香り。高い秋の空。


「微妙なところね」

「見てろよ、鬱陶しくなるくらい言ってやるから」


つんとあしらった私を指さし、了が悔しそうに宣言する。それから、追いついてきた両親に声をかけた。


「親父、母さん。俺たちの結婚を認めてくれるよね」


夫妻は、まだその会話がなされていなかったことを今思い出したみたいに顔を見合わせ、満足そうにうなずいた。


「もちろん──……」

「それはちょっと、のんきすぎやしませんか、お義父さん、お義母さん」


聞き慣れない男性の声が響いた。

ばらの茂みの向こうに、いつの間にか長身の人影がある。了と似たような、小ぎれいなスーツ姿で、冷ややかな微笑を浮かべている。

欧米の血が入っていそうな感じだ。色素の薄い髪と肌。瞳も茶色というより、灰色に近い。彫刻みたいに整った、彫の深い顔立ち。

彼は無遠慮に、了に人差し指を向けた。


「この義兄上が蹴った見合いの相手をお忘れですか。お義父さんがたがその後始末に、どれほど奔走したかお忘れですか。その間この男は、ただ失恋に打ちひしがれていたんですよ」


了の両親が、はっと表情を硬くした。了は黙って、言われるままになっている。

男性は美しい口もとに同情的な笑みをたたえ、芝居がかった口調で言った。


「失礼ですがおふたりは、孫のかわいさに、なにかを見失っているようだ」


うまくいきすぎだと思ったのよ。

私は妙に冷静な頭の中で、嘆息した。

わかっていたつもりで、やっぱりわかっていなかったのかもしれない。

了と結婚するというのは、こういうことなのだ。



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