冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「ごめん、了。服は大丈夫?」

「ただの水でしょ? 出勤の前に着替えるし。こら、傾けすぎだよ、恵ー」


本当にたのしそうだ。受け取った布巾で、自分の塗れたズボンは無視し、恵の口周りと服を拭う。私はバッグから恵の着替えを取り出した。


「濡れた服、置いてっていいよ。洗っておくから」

「ほんと? すごく助かるけど……」

「大丈夫だって。こういうこともあろうかと、無添加の洗剤買ったし」


胸を張る了の勉強熱心さと実行力に感心しつつ、苦笑もした。私が気にしたのは、忙しい了の手間のことだ。


「それ、うちより神経を使ってる」

「そうなの? 普通の洗剤でいいの?」

「洗剤にまで気を配ってたのは、一歳になる頃までかな。さいわいなんのアレルギーも出なかったし、肌も弱いほうじゃないってわかったから」

「そっかー、苦しいことがなくてよかったねえ、恵」


顔をくちゃくちゃになで回され、恵は迷惑そうにしかめ面をする。


「了ってアレルギーとか、あった?」

「小さい頃、喘息気味だったって聞いてるけど、そのくらいかな」


なるほど。じゃあこの先、そういう体質が出てくる可能性もあるわけだ。頭に留めておかないと。

子どもの体質を知るうえで、私の側の情報しかないというのは、不安だった。離乳食時代、はじめての食べ物を与えるときはいつも、了が好き嫌いをする様子がなかったことを思い返して、きっと大丈夫、と祈るような気持ちでほんのひとさじ食べさせた。

着替えさせようと恵を引き取ろうとした私の手を、了が握った。


「食事が終わってからでいいでしょ」

「まだ食べさせる気?」

「恵に果物を買っておいたんだ。あとで出してあげるからねー」


言いながら恵の頭に口づける。まったく、目も当てられないデレデレぶりだ。
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