冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
了はあきれる私の手を引っぱって、自分の隣に座らせた。"寄りかかれ"とでも言うみたいに肩を抱き寄せるので、そのとおりに体重を預け、肩に頭をのせる。

私のこんな姿を見たことがないであろう恵は一瞬きょとんとし、それから顔を輝かせた。彼女なりにすばらしいことを思いついた目つきだ。

やがておもむろに、大人の四本の脚の上を端から渡りはじめた。


「いてて、いて」

「恵、手はここ。髪はダメ、痛いって言ってるよ」


肩に手を置くよう教えると、真剣そのものの恵は、不可解そうに「まま、いってない」と眉根を寄せる。私ははっとした。


「えっと……」


了も、なにが起こったのか気づいたようだった。恵を抱き上げ、「そうだね、ママは痛いって言ってないね」としらじらしく同調する。


「だれが言ったのかなあ?」

「あのねえ……」


横目でこちらを見る了に腹が立って、ぐいと押しのけた。

いまだに、恵の前で彼を"パパ"と呼んだことはない。いや恵だけじゃなく、だれの前でもそうだ。使い慣れない言葉であるうえに、半分しか事実じゃない。

なによりも、恥ずかしい。

了は当然、言ってほしくてしかたないに違いない。


「ま、いいや。恵、桃好き? さくらんぼは?」


唇を噛む私の横で、恵を抱き上げ、とろけそうに甘い声を出している。

その様子があんまりうれしそうなので、許した。




「ありがとう、まこちゃんのこと」


おなかいっぱいになった恵が眠ると、了は書斎からPCを持ってきて、リビングのローテーブルの上で開いた。寝顔を見ながら仕事したいんだそうだ。
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